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入社して少しずつ募ってくる社長に対する不信感。3年目に転職を決意する。 入社直後から社長秘書になった。社長から「初めての院卒社員です」と取引先にうれしそうに紹介されるたびにヤル気がわいた。毎日がむち打ち症のことを忘れるほどの緊張の連続。会社の近くに住まされて、ミスがないように休日でもスケジュール手帳をもち歩く。する仕事がなかったとしても夜の9時10時まで帰ってはいけない、と会社から言われても何の疑いももたなかった。 2年目からはたった1人株式公開に向けての業務を任されて、会社諸規定の整備や議事録の作成、総会のリハーサルなどに精力的に取り組んだ。ところがある日、社員には「職場で公私混同をしてはいけない」と言う社長から、入社もしていない息子の結婚披露宴の段取りを命じられる。「人の欠点は本人に直接指摘しよう」と言いながら陰に回って人をこき下ろす。言っていることと正反対の言動をくり返す社長。 どうしても納得できない感情を押さえ切れなくなって、同行予定のなかった出張に向かう新幹線に飛び乗って直談判をしても、本心を伝え切れないまま言いくるめられた。「次の仕事は見つかるのか?」。そんな不安から転職に踏み出せないまま、任された業務だけに真剣に取り組んだ。つき合っていた女性がいつも温かく見守ってくれた。 入社3年目を迎えたころ、「この会社が株式公開しても世の中のためにならない」という思いが強くなり、シーシーエス株式会社の面接を受けた。国内60%のシェアを誇る画像処理用LED照明のリーディング企業。社長の「働くなかで大切なことは人や社会のために役立っているかどうかだ」という言葉に押しつけ感がない。マンツーマンで90分間も話し合えた。社内の人たちのさわやかな笑顔、透明感…。バイオや医療分野にも進出したいというビジョンにも強く魅かれて転職の決意を固めた。 親の反対を押し切っての結婚。 自分らしい生き方で人の期待に応えていきたい。 株式公開の準備部署に配属。新しい環境に移れるうれしさの反面で、人間関係や社風になじめるのか? 合理化のまっただ中での中途入社で周囲から冷たくされないか? そんな不安が押し寄せる。 一人ひとりが、時間管理も含めて自分の責任のもとで仕事を進め、それぞれが意見をもって遠慮のない活発な議論を交わすことで、組織がうまく機能していることに新鮮な驚きを感じた。「この中なら自分にできることを積み重ねていける!」と気持ちが切り替わった。 28歳で以前からつき合っていた女性と結婚。親からの強い反対を押し切った。同時に35年ローンで自宅も購入。長男も誕生して親からようやく一人前の大人として認められたように感じる。 入社3年目にバイオメディカル分野の新規事業の部署に異動、大学や研究機関に製品を提供するためのマーケティングの仕事に就いた。大好きだった機械や大学で学んだ分野に少し近づいてきた。まだ準備段階で実績も上がっていないが、重要な会議などの場で報告をするたびに大きな仕事を任されている充実感がわいてくる。いずれはこの分野の製品を会社の大きな柱に育てたい。 人からの期待には応えたい。でもそのことで自分を殺してしまっては本末転倒だ。物心ついてからのさまざまな出来事で、そんなことを少しずつ学んできた。自分が好きな分野に自分らしく取り組んでいく。決して無理せずあくまで自然体で仕事も家庭も両立させていきたい。そんな心の余裕からか、悩まされ続けてきたむち打ちも健康管理にさえ注意すれば大丈夫なほどに回復してきた。 将来は、ケガや会社での出来事を通じて得た経験をもとに小説を書きたいとも思っている。「直木賞作家になりたいですね」。目を輝かせながら楽しそうに語ってくれた。 物語に関するご感想などをぜひお寄せください。 |
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