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29歳で初めての転職。経営者の考え方や方針のあまりの違いに感動する。

 意欲もないダラダラ仕事で1年間を過ごしてしまう。自分の将来像を描けないむなしさがつのり、行き当たりばったりで業務をこなすだけの毎日だった。
 そんなある日、会社の経営をなんとか支えていた技術部長までが会社を辞めていった。騒然とする社内。ようやく転職する決意が固まる。29歳になっていた。
 登録をしていた人材紹介会社からナベルを紹介された。ナベルは「よろこばれることの、よろこび」という経営方針のもと社員の自主性を重んじ、全自動鶏卵選別包装システムを日本で初めて開発し、国内外から高い信頼を獲得する成長中の機械メーカーである。
 社長面接。「仕事もプライベートも充実していないと、いいものは作れない」「会社は社員みんなのもの。だから毎月きちんと会社の収支を全社員に報告している」という今の会社の経営者の考えと180度も違う言葉に感動する。この社長の下で働きたいという意欲が高まる。しかし、「君の実力なら丁稚から始めてもらう。その覚悟がありますか?」と、厳しい評価を下された。
 1週間後、設計ではなく製造・組立の仕事としてなら採用してもいいとの連絡を受ける。迷うことなくOKの返事を出した。「新しい会社で基礎から技術を学び直すぞ!」。期待で胸がふくらんだ。
 上司や同僚たちとの知識・経験・判断のレベルの違いや、仕事に取り組む姿勢の厳しさに驚かされた。誰もが技術者として「自分の言葉」をもち、相手に対して理論的に説明しながら仕事を進めている。前の会社が顧客や取引先から「T温泉」と呼ばれていた意味をはじめて理解することができた。


人に喜ばれる商品開発。技術者としての充実感と満足感を存分に味わう。

 与えられた仕事の納期も守れず、職場の仲間ともなじめないなかでも、歯を食いしばって仕事に没頭した。「開発部で君の経験を試してみたい」。入社から3カ月後の社長面談で言われた。
 「こんな基礎的なことも知らんのか?」。あきれたような目で見る開発部の上司。恥ずかしさのあまりに赤面する。そのたびにひそかに専門書を調べあげ、それでも理解できないときは、後輩に恥をしのんで教えてもらった。知らない間に白髪の量が増えていた。
 1年後のある日、社長が考える新しい構想を具体的な形にする商品開発を任される。社長から直接技術を学べる絶好の機会。上司や先輩たちの力を借りながら深夜まで図面を描き上げ、社長から毎日のように怒られながらも完成にこぎつけた。3カ月を費やした。社長や営業マンたちから「よくやったな」とほめられて、ようやく認められたような気がした。後日、業務報告で知らされた顧客先からの喜びの声。なんとも言えない満足感でいっぱいになった。
 人に喜ばれるものづくりに熱中できる今の仕事は楽しくてしかたがない。1日でも早くみんなの技術レベルに追いつきたいと、会社の定時終了後や休日の土曜日を利用して自分の勉強時間にあてている。
 幼いころから、一度始めたことは周りの人がどうであれ納得するまでやり続けてきた。そんな姿勢が、多くの仲間と一緒になってものづくりに没頭できる今の職場を巡り合わせてくれた。
 今はまだ先輩たちが苦労して築きあげてきた技術を継承している状態。「いずれは自分が発想した機械を世界中で動かしてみたい」。そう語る瞳には大きな夢が広がっていた。


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