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好きな仕事ができる喜び。接客も楽しくなってきて、32歳で店長代理に抜擢された。

 「接客がこの私に務まるの?」という不安のなかで、配属された店でコミックとゲーム本の担当になる。アニメ雑誌を自腹で買って情報収集し、ゲームに詳しいアルバイトに意見を聞きながらフェア企画をする。よく上司に叱られた商品の欠品も、みんなの協力でしだいにコツが掴めてくる。毎日届く書籍が詰まったダンボールを運ぶ体力仕事も苦にならない。
  1年半後に異動した郊外店では事務作業も任される。担当商品数も倍以上に膨らむが、失敗しても自分なりに考えて少しずつニーズの高い商品を掴んでいく。仲間で頻繁に飲みに行っては結束を固めて、遅刻常習バイトの防止案を社員全員で出し合うなどして店づくりを楽しんだ。
  顔をこわばらせながらも頑張ってきた接客。しかし、あるときは袋から本を出して長時間立ち読みをする客を注意すると「店長を出せ!」と怒鳴られ、あるときは本を取り寄せた客に「こんなに高いのなら先に言え!」と叱られて、「注文したのはそちらですよ」と反論して本部にクレームの電話が入る。客先で店長と頭を下げながら「お客様の立場を考えなきゃ」と思った。それでも、ときに「ありがとう」と言われる喜びにも支えられて3年が過ぎていった。
  32歳での異動先では、望んでもいなかった店長代理に抜擢される。店の売上目標の達成に向けて、「業績向上に貢献できる後輩を育てなければ」という責任感から口調が厳しくなっていく。その他業務も多忙を極め、上司に「もっとみんなと会話しよう」と指導されても、注意すれば落ち込む後輩に何を言えばいいかわからない。更に表面的な指示に終始していく。
  ついに感情的に叱ってしまった後輩から退職を告げられた。無我夢中でいつも親身になってくれる店長や上司に説得してもらう。「菅原さんとはあまり話しません」と後輩が漏らしていたと聞いて自信を失った。「店長代理を降りた方がいいのかも…」。しかし、家族を経済的に支える身。逃げるわけにはいかなかった。


最も苦手だったリーダーシップに悩む。店を訪れた専務に初めて弱音を吐いた。

 郊外店で近くに助けを求める先輩もいない。万引きや他の客に迷惑をかける中高生グループ7〜8人に囲まれても一人で立ち向かう。店を訪れた専務に「しんどいんです…」と初めて弱音を吐いた。後輩指導の重責にも耐えかねて異動をお願いした。
  途中で投げ出してしまう悔しさを学生時代の友人に話してストレス発散する。弟と一緒に夜10時から神戸へ車を走らせては、高速のサービスエリアから見える夜景を眺めた。
  中心部の店に店長代理として転属してもらえた。体調まで気遣って店をのぞいてくれる上司たち。「今度こそ何とか乗り切ろう」と思った。まめに陳列変更するよう指示してもなかなか実行してくれないスタッフ。決してあきらめずにその必要性を伝え続けていくと、「私と違ってみんな新しいことをするのが不安なんだ」と気づいて、「大丈夫!大丈夫!」と精一杯励まし続ける。少しずつだが手応えは感じてきている。
  書名を思い出せずに悩む客と1時間かけて本を探し出すと、後日お礼のためだけに店に立ち寄ってくれた。苦手と思い込んでいた接客から得られる喜びに励まされて頑張れている自分に驚いている。
  何事も白黒つけたかった学生時代。多くの割り切れないことを実感してきた16年間の社会人生活。それでも、決して簡単に逃げ出さずに目の前の仕事に懸命に取り組んで、好きなことを仕事にできた。周囲の協力に支えられながら接客スキルを身につけ、最も苦手だったリーダーシップにまで挑戦させてもらっている。現在、女性管理職は2人。後輩も後に続いてきて欲しい。自分色を出した店を一から作ってみたい。
  気の長い一面でいつか管理職の苦難も乗り越えて、家庭を作るパートナーにも出会えるはず。「理想の相手はおしゃべりな人」と明るく笑った。

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