| バックナンバーはこちら |
![]() ![]() |
|
次々と商品化されていくはずの企画案すら浮かばない。仕事が頭から離れない。 上司は東京にいて、いざ1人で企画をしようと机に向かうと何も思い浮かばない。何とか絞り出したアイデアを羅列して提出しても全く通らない。「お客さんの視点に立っていない!」「これを大量生産できるのか?」「いったいどの層をターゲットにしてるんだ?」…。社長や上司は容赦なく言った。ますます企画案を形にまとめられずあせりが募る。通勤中や就寝前、入浴中も頭の中は商品開発のことばかり。 ようやく案が通って試作してもらうと思うようなものができ上がらない。試食後にこれはいける!と踏んだ企画商品は、原価と合わなくてボツになる。社長はよく「あんたは天才じゃないんやから、常に頑張らないとアカンで。もっと外に出て客の立場で見てごらん」と励ましてくれる。時折食事をごちそうしてくれ、たわいもない話で気を紛らわしてもくれた。 周囲と全く会話を交わさない日もあった。同期は散り散りになっていてなかなか相談できない。行事で実家に集まる親戚にまで意見を聞いて、1人悶々と案を練る。休日に出かけた買い物中にお菓子のパッケージにばかり見入ってしまって妻に怒られた。 「辞めたらどうなるんやろう」ということが頭をかすめる。年に1〜2度は集まる学生時代の友人たちも新卒入社した会社で頑張っている。週に1〜2度は街中へ視察に出かけて試行錯誤を続けた。家をしっかり守ってくれる妻、生まれたばかりの娘の寝顔を見ては自分を奮い立たせた。 大きなヒントを得たときに通達された営業部への異動。今はネット通販に賭ける。 そんな2年が過ぎたころ、社長はさまざまな部署の若手メンバーによる商品企画会議を設置した。ミーティングを重ねるうちに、メンバーからの何気ない発案で開発された「ひとくちおたべ」や「抹茶おたべ」がヒット商品になっていく。「こんな風に生み出されていくんだ」と気づく。 石田自身も2つの案を商品化させた。商品企画の大きなヒントを得て今後の決意を固めていたある日、東京から本社に来ていた上司に小さな会議室に呼ばれて言われた。「残念だけど営業部に異動だ。私がもっとそばで見てやれればよかった…」。「やっぱりあんたには向いてない」と社長に宣告されたように聞こえた。 顧客の視点、製造部や営業部との事前からの連携、原価計算など、さまざまな人や発想が絡んでいるからこそ商品化されて、ヒットにもつながる。机上で考えていても何も始まらないことを痛感して落ち込んだ。 以前に担当したサイトを本格的な発売チャンネルにする仕事を任され、「楽天市場」でのネット通販の「店長」になった。サイトのメニューを考え、顧客からのメッセージに対応する体制を作る。ときには深夜に自宅で顧客からの問い合わせメールに対応する。通販用商品の企画の機会も残っていた。翌日にはもう気持ちを切り替えられた。 今はまだ微々たる売上のネット通販をいつか「事業部」へ成長させたい。再び直営店の店長もやりたい。店舗なら現場で顧客やすべての関係者と常にコミュニケーションを取りながら商品開発ができる。次こそはきっと成功できる気がする。もしかすると社長はそんなことを気づかせるためにいろいろな現場を経験させてくれたのかもしれない。 自分との孤独な戦いである長距離走で培った持久力で7年目にしてつかんだ1回目のチャンスは活かせなかった。何でも言い合える妻、かわいい娘。信頼を預けてくれる社長や上司、一緒に仕事をしている仲間たち。これからも多くの人の指導や応援を受け、自分を育んでくれた両親のように家庭を大事にしながら、これからもまたリベンジに向けて走り続ける。 物語に関するご感想などをぜひお寄せください。 |
|
ページ: 1
| 2
|