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異動先でもうまくいかない。自分を中傷するうわさを聞いて一晩中泣き続けた。

 「何がそんなに悪かったの?」。だが、同じ店舗に相談できる人はいない。逃げ出したい。「帰ったら私の部屋はもうないかも」と思いながらも親元へも電話した。求人情報のメルマガを購読したり、ネットで探した社会人のスキーサークルに参加して休日を満喫してもみた。それでも次の店へ異動が決まったときは、「新たなチャンスを与えてくれた会社に応えたいし、次はうまくいくかも」と考えて引き受けた。
 異動先では、常駐ではない店長から「何で指示したことができてないんだ」「何かいいアイディアはないか?」などと次から次へと多くを要求され続ける。自分にできる目の前の業務に精一杯取り組んだ。公休日を削って店舗に出たり、競合店を視察する。他の店舗にいるずっと仲のよい同僚と話をしてストレスを解消する。社外のスキーサークルに入って作った友人と、仕事に関係のない話をして気を紛らわせた。
 あるとき、アルバイトが「井上さんと働くのはイヤです」とこぼしていることを聞いた。そういえば「休みたい」という申し出に、「自分の代わりの人を探してから休んで」と告げると泣き出されたことがあった。任せていたコーナーを勝手にさわったことが原因で、口をきいてくれなくなった人もいた。他にも思い当たる点はいくつもある。夜中に、くやしくて1人で泣いた。
 以前から何度も上司に「コミュニケーションが足りない」「俺ならあそこでフォローを入れるのに」などと言われてきた。そのときは、「社員としての責任を果たすためなのに」としか思えなかった。「私が悪かったのかな…」。ぼんやりと感じ始めた。


自ら心を開いて話すと相手も答えてくれる。そんなことを実感できた。

 昨年の8月、再び店長として郊外の店舗に配属された。「働く上での人との接し方を学ばせてもらえる最後のチャンスかもしれない」と覚悟を決めた。
 「まだ暑いですねー」「髪型変えた?」などと、業務に関係ない話題を自分から話しかけてみた。商品の配置を変えたいときは「どちらがいいと思います?」と相談する。少しずつアルバイトからも話しかけられるようになってくる。
 反省することも忘れない。「今の言い方きつかったかな?」と少しでも感じれば、「さっきはごめんなさい」と素直に謝れるようになった。「こういうことだったんだ!」。だんだん実感がともなってきた。
 アルバイトたちと一緒に考えて、顧客層に合わせた商品を多く取り入れると、それが少しずつ売上に表れ始めた。仕事は生活のためのもの。しかし、同じ働くなら少しでも多くのやりがいを感じたい。その気持ちはアルバイトのみんなも同じなんだ。親しい友人にばかり頼っていてもしかたがない。目の前の、一緒に働く仲間を信頼して、一緒に頑張って喜びを分かち合えばいい。
 今の仕事は「雑貨が好き」という思いだけでは務まらない。勤務時間は不規則なうえ、かなりの体力も必要だ。営業時間が終わった後も事務仕事や陳列の入れ替えなどの業務が待っている。店長会議では厳しい指摘を受けることもある。
 しかし、決して逃げ出さないことでいつもチャンスを与えてもらえ、立場を越えて心を開くことの大切さを学べた。この気持ちを大切にすれば、どんな人間関係も怖くない。その確信を胸に、お客様に喜ばれる店作りをめざしてアルバイトとともに毎日忙しく店の中を動き回っている。


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