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再び選んだホテル業界。自分が頑張っていればいい、そんな思い込み。

 27歳。小さなOA機器会社に就職させてもらうことも考えた。しかし目に飛び込んでくるのは単調な仕事、ホコリまみれの店内、ぞんざいな電話応対。いつしかホテルと比較してしまっている。「限られた人間関係のなかで何十年も過ごせるのか?」。そんな考えが頭をよぎる。
 そんなとき、琵琶湖ホテルがリニューアルオープンすることを知り、お客様や後輩から喜ばれたときの充実感がよみがえってきた。実績を買われて求人もなかったフロント要員として採用された。
 300人規模の国際的なマラソン大会などで仕事のやりがいを実感する。ただロビーの接客のひどさが目についた。親しい人から「ここのロビーどうなってるの?」と言われても、返事に窮するだけだった。与えられたフロント業務での高いサービスを追求したい。「しかし今のうちのホテルで、ロビーを変えられるのは俺しかいない…」。4年目にロビーに転属されてようやく腹を決めた。
 いざ業務に就くと、正しいあいさつもできず、平気で早退・遅刻して、お客様を乗せたタクシーが到着したことにも気づけないアルバイトたちにガク然とした。前のホテルではロビーは全員社員で構成されていた。懸命に個別指導をする毎日。それでも変化はほとんど見られない。「俺はここまでやっている。アルバイトだからダメなんだ!」。1人で仕事帰りに飲むビールの量が日々増えていった。


文句を言うだけでなく、自分に何ができるのか?動き出す若者たち。

 偶然にも、前のホテルの支配人が職場を訪れ、多忙な時間を割いて1カ月間も指導に当たってくれた。「お前が教えなくて誰が教えるんだ! 以前はそうだったじゃないか!」という真剣な激励に涙がこぼれそうになった。「俺自身があきらめていたのかもしれない…」。
 その気持ちを20代のアルバイトたちの前でさらけ出した。ミーティングや飲み会を開き、アルバイト同士の交流を深めることから始める。ミスを必ず報告させてその内容に改善方法やその意味を文章にして付け加え、蓄積していく。小さなことでも本人が納得いくまで説明を続ける。歯向かってくる者からも決して逃げずに語り続けた。厳しさにホテルを去る者もいる。それでも「目的が明確でないこと」に取り組むむなしさだけは味わせたくない。働いている限りその時間を精一杯充実したものにしたい。それは社員もアルバイトも関係ない。上司の指示に逆らってまでも区別せず話し合いを続けた。「たとえわずかなアルバイト期間でも、生きていくうえで大切なことを伝えたい」。自分に言い聞かせた。
 半年後、反響のなかった宿泊客アンケートが少しずつ舞い込んでくる。「ロビーの人たちが本当に気持ちよかった」と綴られている。アルバイトたちの目が輝く。「ロビー全体の会議もしましょう」との意見まで出てきた。2年という月日。自分たちで考え、自分たちで実行する体制ができあがっていく。入社直後のアルバイトたちに3日間の研修を導入して、さらにその体制を固めた。
 結果が数字に表れない部署。サービス向上のための設備投資もなかなか認められない。「見えないところで頑張る人たちを見てやってください」。会社の上層部に意見書も提出した。少しずつ動き出す会社。3年前に結婚した妻。寂しい思いをさせることも多いがいつもそばにいてくれた。
 苦しくても真剣に目の前の業務に取り組み続け、たとえ裏切られても人を信じ続けた。そこで生まれた本物の出会いが自分を支えてくれる。「ヒマつぶしでもいい」とまで思った仕事が、「人生の醍醐味」である「人との出会い」を生み出す舞台に変わっていた。


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